ひきこもり「ないない」体験がきた

 

杉本:あ、それでね(手を打つ)。話がぽんぽん飛んで申し訳ないんですが、責任で思い出したんだけど。改めて自分の経験部分とか読んで思ったんだけど、けっこう僕。「何々された」という物言いをすごくしてるな、という気がしたんですよ。

 

勝山:ん? というと?

 

杉本:つまり中2のときに女子に席を離されたとかね(笑)。

 

勝山:(笑)あれで、もうメダル確定ですよね。

 

杉本:それとかさぁ。

 

勝山:そのあとの「カンニング」で、もう金メダルが確定するという(笑)。すごいですよね。

 

杉本:(笑)嫌われるだろう、という話なんだけど(笑)。

 

勝山:「あるある」ネタの逆ですよね。「ないない」ですよね。「ないない」が来たと。全然共感できない(笑)。

 

杉本:ははははは(爆笑)。

 

勝山:業界初ですよ。たいてい共感があるんですけどね、「うん、わかるわかる」だけど、「わからない、わからない」というのが続きとして出てきた。それがカンニングですよね。

 

杉本:ちょ、ちょっと立て続けなんでね(笑)。

 

勝山:ええ。女子に席を離されたのは「あるある」なんですよ。

 

杉本:でも。でもさ(笑)。

 

勝山:そこからのカンニングは、「ないない」。もうね、盗っ人みたいな。本当に神経が図太いなぁっていうね。

 

杉本:(笑いすぎて涙)で、で、まあね。そういう感じで離されるだろ? という話なんだけどさ。まあ、離されましたと。可哀想な杉本君という話しに一応したんだけど。ひひひ(笑)。

 

勝山:すぐさまカンニングじゃないですか? 完全な「悪」でしょう(笑)。

 

杉本:「語るに落ちた」というやつかな(爆笑)。ははははは。

 

勝山:「のぞき見」ですよね(笑)。テストの点数上げたい。それだけのために。

 

杉本:それでさあ(笑)。それでね。それがひとつあるのと、次に大学入った後に俺、自分で新興宗教に入信。これ二番目に俺、自分が問題だなあと思うのは一緒に「しないしない」って言ってた友だちのほうが先に入信しちゃったから俺も入信しちゃったって。これもまた友だちのせいにしちゃってるみたいだしさあ(笑)。

 

勝山:いやいや。そこまでは分かるんですよ。その後に幹部になるのが、どうかしてるんですよ。

 

杉本:そうそう。

 

勝山:出世しすぎなんですよ(笑)。

 

杉本:へへへ。えぇ~。そう?

 

勝山:そこが「ないない」なんです。一人で寂しくてねえ。こう、真面目な話をしたいということで騙されて入っちゃうというのは何か分かるんですよね。

 

杉本:なるほど、なるほど。

 

勝山:そのあとどんどん出世してね、幹部になってね。説法する側になることが「ないない」なんですよ。

 

杉本:それなり入信させちゃいましたからね。

 

勝山:普通そこまでいけないですからね。

 

杉本:で、逃げるでしょう?僕。

 

勝山:脱走ですよね。

 

杉本:で、それも何かマインドコントロールさせられたというか、ギュウギュウに搾られた「から」ということになって、そのあとマインドコントロールうんぬん、ということになって、という風な仕立てで。何かね。ちょっと反省した。「これはいかんな」と。

 

勝山:ははは(笑)。

 

杉本:まあ反省に呑み込まれるつもりはないですけど。うん。ちょっと「受け身」だったな、という風に思いましたね。

 

勝山:でもカンニングは受け身じゃできないですから。かなりアグレッシブな行為ですから。

 

杉本:あの頃は背景にほら。家のこととかさ。いろいろさまざま。いい子ちゃんになりたかったとかあった。

 

勝山:ああ、なるほどね。

 

杉本:でもダメだな。人として。うん。そうそう。だから偽善者なんだよねえ。別にネガティヴな意味じゃなくて。

 

勝山:(笑)。別にネガティヴじゃないですよ。

 

杉本:う~ん。でもそういう血はあると思いますよ。

 

勝山:あるんですか?

 

杉本:あると思います。間違いなく。あんまり露悪的な演技は下手ですね。だから俺の場合無意識に何か人のせいに。流れ的に人のせいにしていたというか。そういうところがあるなと思いましたね。だからこの本で言えば塚本さんなんか自分の中で気づいたあたりがすごいなあと思いました。僕はひとりじゃ物ごと気づけない人なんで。どうしても人頼みというか、人頼りにしちゃうんですよね。勝山さんは結構早いときから自分頼みで来た印象がありますけどね。

 

勝山:自分頼み?

 

杉本:うん。

 

勝山:というと?

 

杉本:何というか、結構ひきこもっている人の中には受け身な感じになることが多いじゃないですか? とりあえずこじれているときは周りに対して受け身な感じで。悪かった、すみません、みたいなね。

 

勝山:ほお。

 

杉本:社会に対して受け身になっちゃって。自分は状況に振り回されちゃってひきこもったんです。すみませんみたいな。まあ、僕なんかもそういう傾向があったんだけれども。そこら辺は勝山さんはいい意味でアグレッシブに。

 

勝山:まあ、ないですね。常に自分が正しいと思ってますから。

 

杉本:うん、そこね。でも大事なポイントじゃないかなって。

 

勝山:ええ。

 

杉本:そこで闘いが発生するじゃないですか?

 

勝山:そうですねえ。

 

杉本:正しさ。間違ってない、っていったら必ずそれに対して「いや、お前はそう言うが」みたいな形でね。

 

勝山:ええ。

 

杉本:その前に避けちゃうんですよね。僕なんかもそうですけど。何というのかな?自分の方が悪うござんす、みたいなね。

 

勝山:(笑)まあねえ。

 

杉本:それは完全に敗北宣言なんですけど。

 

 

 

自分自身を捨てて生きていけるか

 

 

 

勝山:(自分が間違っているとしたら)働かなくちゃいけないじゃないですか?

 

杉本:そうそう。これは(安心ひきこもりライフの)『涅槃編』の話にもつながってくることなんですけど。

 

勝山:行きたくないところに行って、やりたくないことをやるっていう。それを「受け入れる」ってことじゃないですか。

 

杉本:うん。はいはい。

 

勝山:それはちょっとね。それはできないと。

 

杉本:そこが本当の気持ちというか、自分の気持ちに正直なのか、違うのか。自分の気持ちを裏切ってるのか、どうなのかという所ですよね。

 

勝山:自分自身を捨てて生きていくのか。そこを我慢できるか。私もできるんなら、やってもいいですけど、ちょっと無理だなと思ってね。

 

杉本:それは早い段階からですか?割と。

 

勝山:それは、30歳くらいですかね。それまでは順応しようと思っていましたね。

 

杉本:確かに「ひきこもりカレンダー」読ませていただいたときはいい意味で若さというか、逆に言うとそこの部分で辛さもあったんだろうな、と思ったんですよね。ひきこもり当事者の気持ちとしてダイレクトに心の叫びが聞こえる部分が「カレンダー」にはありましたよね。そこはやはり外側からくる風圧の強さみたいなもの。それをかなり受けていたんだろうなあ、って。それが10年経つとここまで何というか、成長するんだなあって。

 

 

 

自分の中の世間様

 

 

 

勝山:10年間。働いてないですからね。

 

杉本:う~ん。境地ですよね、ひとつの。

 

勝山:境地ですね。

 

杉本:まあ、だからね。良くも悪くも「嫉妬心」みたいなのはありますよ。こういう風になりたかった、という人も結構いると思うしね。純粋に、「勝山さんのようになれたらいいなあ」と思う人もいるだろうし、何というんだろうなあ? こういう風になれることに本当は憧れてたんだけど、これを認めちゃったら「自分の中の世間様」が許さない、みたいなね(笑)。

 

勝山:名言ですね。

 

杉本:そんな感じかなあ。

 

勝山:その通りですよ(笑)。

 

杉本:この「自分の中にある世間様」を。ちょっと、「よっこいしょ」とよけちゃった、というのがすごいなあ、っていうあたりなんですよ。

 

勝山:「自分の中にある世間様」って何なんだ? ってことですよね。

 

杉本:本当ですね。厄介ですね。みんなここで苦しんでる。

 

勝山:そこでやってけるんならいいんですけどね。まあ、杉本さんなんか、王者の中の王者なわけじゃないですか。

 

杉本:いや。わかんないよ~。

 

勝山:分かると思いますよ(笑)。今回の”真っ白事件”を思い直してみても、ずば抜けてるということは自分でも気づいていると思うんですよね(笑)。それでも世間様を保てるのか、っていうことですよね(笑)。

 

杉本:ははははは。う~ん。まあ、結局みんな子どものときに何かまわりのね。テレビとか親とか周りの大人とかみて、立派なものはこれだ、みたいなイメージがあって。「まさかこうはなるまい」みたいなことがあったわけなんですよ(笑)。

 

勝山:「これはない」というね(笑)。

 

杉本:いつの間にか誰も歩いたことはない道を歩んでいた、ということにふと気づいたということで。だから僕、自分の本の序章でいろいろ言ってることはまだ歩いたことのない道を歩いた理由は実はこうで、ああで、と言ってる感じがしますねえ。そこはちょっと言い訳がましいところがあるなあという感じもしないではないですね。思い込みかも知れませんが。カンニングだってね。そんな特別なことじゃないと思ってたもんね。

 

勝山:いやあ、これはないですよ。

 

杉本:村澤氏も別に驚いてはいなかったけどね。

 

勝山:ばれるということがすごいんですよ。

 

杉本:ばれる?

 

勝山:ばれるくらいのカンニングというのはすごいことですよ。

 

杉本:ああそうか。あはははは。

 

勝山:カンニングした人はいるだろうけれども、ばれて告訴されたというかね。

 

杉本:(爆笑)。

 

勝山:クラスでつるし上げになった人はたぶん杉本さんだけじゃないかな? と思うんですね。

 

杉本:(笑い泣き)。

 

勝山:確保されたわけですね。「先生!」、「現行犯、現行犯」ってことで。

 

杉本:そこまで行ってない(笑)。内々、内々。でもねえ。逮捕された方が良かったかもしれないね。結局ほら、変な邪推が起きちゃったからね。僕の中にね。もしかしたら俺の知らないところでみんな知ってるんじゃないか?と。

 

勝山:ああ、なるほどね。

 

杉本:ほら、無視される人が邪推するじゃないですか? 何で無視されてるか理由、わかんないから。もしかしたらアレだ、コレだ、みたいな。全然自分に罪のないことまで考えちゃったりするでしょう? まあ僕の場合、明確にやったことは事実なのでね。結局邪推が邪推でもないのかもしれない、という。

 

勝山:「僕のことを嫌うのはやめろ」もヤバかったですよね。危うく大宣伝をして札幌に住めなくなったかもしれないじゃないですか(笑)。

 

杉本:(腹を抱えて笑う)まあ、病院にいますわね、間違いなく。

 

勝山:「ないない」の極地ですよ。

 

杉本:(爆笑)。

 

勝山:「世間様」のカケラもない(笑)。「僕のことを見るな」と「世間様」がなぜ両立するのか? ということを問いつめたい。

 

杉本:年月(としつき)を経て、僕も世間様のことが見えてきたんですよ。

 

勝山:見えてくるんですかねえ。

 

杉本:このときは気の迷いといいますかねえ。まあ~。”ススト”のようなものですから。ははは。

 

勝山:私なんかは、常識人だから。わからないんですよ。

 

杉本:カンニングしたい、と思ったこともないですか? 勝山さん。

 

勝山:考えたこともない。

 

杉本:あらまあ。すごい。そうか。相当違うなあ。

 

勝山:小市民ですから。

 

杉本:う~んそうか・・・、じゃあ点数取るには勉強するしかない、と。

 

勝山:そういう当たり前の考え方しか思い浮かばない。

 

杉本:でも中学の時点で辞書で調べりゃわかるようなことを暗記しなくちゃいけないなんていうのは、苦痛以外の何ものでもない、ということに気づいたというもまた、すごいですね。

 

勝山:その気持ちのまま3年勉強してたんだからキツイですよね。

 

杉本:気づいてねえ・・・。

 

勝山:うん、気づいた後にやるのが辛いですよね。

 

杉本:うん~。大人になりゃ気づいたらやめりゃいいけど、少年はできないもんねえ、それ。

 

勝山:まさか中卒で社会に出るわけにもいかないじゃないですか?

 

杉本:そうねえ。だけども僕らの時代はいろんな意味で牧歌的な時代ではありましたね。それと俺の場合は家がね。逃げ場所があったんで。

 

勝山:ああ、なるほどね。

 

杉本:うん。これがなかったら今頃ホームレスですよね、間違いなく。もうね。ちょっと笑い事じゃないというか。ははは。身の上話さえ聞いてくれないところに落っこちてたと思いますけど。それがいまいろんな形で身の上話聞いてくれちゃってるから。

 

次のページへ→

 

 2