勝山実さん(ひきこもり名人) インタビュー(前編)

 

 

 

 

 

 

今回は自称「ひきこもり名人」の勝山実さんのロングインタビューを二回に分けて掲載します。まず導入部は横浜で行っている「新ひきこもりについて考える会」の読書会、私が編纂した本を取り上げていただいたことを機会に、会に関心を持っていた私が読書会参加の当日、勝山さんと、また、ひきこもり相談施設「ヒューマン・スタジオ」を開設されている丸山康彦さんにインタビューしてから読書会に臨んだのですが、あまりにも充実した会に酔ってしまったため、ICレコーダーに収録したふたりの音声をコンピューターへのインストール際にミスで全部音声削除してしまった。その顛末の果て、改めてネット映像電話「スカイプ」で再インタビューに応じてくれた勝山さん。その話題がやりとりの前段になっています。

 

 

 

 

ひきこもり王者

 

杉本::ICレコーダー、いろいろと復旧しようとして頑張ったんですけど。

 

勝山:その結果として完全消去した、と。

 

杉本:(笑)結局、業者に頼みました。これはもう個人じゃ無理だなと思って。後知恵でネットで調べたら、そういうことになったらすぐにパソコンを切って、プロに頼まなくちゃダメみたいな情報を見つけて。「これは大変なことをしてしまったかもしれない」と思いまして(笑)。

 

勝山:ほうほう。

 

杉本:最初から業者に頼んでおけば良かったと思って…。でも復旧したものには、フォルダーごとというかな。ファイルも全部あり、時間もバイト数もきっちりと入ってたんで。これは復活できて良かったと思って。ルンルンで家に帰ってさっそく聴き返したら、最初の10数分でもう先に進まない(笑)。

 

勝山:あとは無音と…。重ねて録音しちゃったんですかね?

 

杉本:僕がおそらくデータ復旧の無料ソフトを試して、途中でキャンセルをかけたりしたので、いろいろ上書きされてしまったと思うんですよ。

 

勝山:そうですか。

 

杉本:ということで、メールで丸山さん、勝山さんお二人にお詫びしようと思ったんですけど、勝山さんから本の書評を書いてくれた『Fonte(旧・不登校新聞)』本体をわざわざ送ってくれたので、これは直接謝らないとあまりにも義理に反する、と思いまして。

 

勝山:いえいえ、とんでもない。

 

杉本:まさか改めてインタビューを引き受けてくれるとは。

 

勝山:お安い御用ですよ。

 

杉本:ありがとうございます(笑)。

 

勝山:さすがは「王者」だな、と思いましたね。

 

杉本:ひい~。(笑)、何の王者なんですか?

 

勝山:札幌から横浜まで来て、録音して、インタビューをやって。私が2時間、丸山さんが2時間。そのあと読書会を5時間。その録音を札幌まで持って帰って、自分の部屋で真っ白にフォーマットするという(笑)。

 

杉本:(笑)はっきり言って疲れました、あの日は(爆笑)。

 

勝山:さすがプロフェッショナルというか、私などは及びもつかないですね。やはり「王者」だなと思いましたね。

 

杉本:いえ。勝山さんだって、本を出してから2年ぐらいずっと巡礼の旅を続けてたでしょう?

 

勝山:でもしょせん「常識人」ですから。

 

杉本:(苦笑)。

 

勝山:こんな荒技、できないですからねえ。

 

杉本:ひひひ(笑)。褒められてないじゃないの(笑)。つまりひきこもりとして・・・。

 

勝山:ええ。まあ「王者」だなと。

 

杉本:(笑)もうダメですかね?ボクは(笑)。

 

勝山:(笑)この道一本で行くべきだと思いますね。

 

杉本:何かいつまでたっても中途半端な状況でいるような人なんだろうか? と思われている節もあるんですよ。

 

勝山:いえ、全然中途半端じゃないですよ。ブッちぎってます。ダントツじゃないですか。

 

杉本:僕が自分で自分のことを気づいてないんじゃないか、みたいな?

 

勝山:気づいてなかったんですね、うん。

 

杉本:そんな自分はどうしたらいいのかしら?(笑)。涅槃の道を歩むしかないんですかね?

 

勝山:当然ですよ。涅槃のコース確定ですよ。

 

杉本:自覚があるか? という意味では勝山さんに全くかなわないんですけど。だって、そうやってにこやかに笑ってるじゃないですか。

 

勝山:あはは(笑)。

 

杉本:僕はちょっと困惑しますもん。そんな風に言われてもね。

 

勝山:そうですかね。いや、私も度肝抜かれましたよ。データが真っ白になったと聞いたときは。

 

杉本:ひひひ、ひひひひ(腹を抱える)。

 

勝山:復元作業と称して、じつは完全消去したわけじゃないですか? そこがすごいなあと思ってね。

 

杉本:音のほうはね。10数分は残ったんだけど。

 

勝山:そこもすごいですよね。王者の技ですよ。

 

杉本:終ったあと、業者さんの前で確認作業をやったんですよ。でも、フォルダーのファイルは2時間+2時間だけじゃなくて、ほかにも同じくらいの音声が沢山あるから、音声の最初の方だけ確認を続けて。勝山さんたちの音声が見つかってよかった、と。まさか業者さんも僕も最初の10数分で音声が終るなんて思いもしないからね。もうにこやかに、「ありがとうございました、もう二度とこんな馬鹿なことはしません」と言ってルンルンで帰ってきたのに(笑)という話でしたね。

 

勝山:気持ちよく帰ってきたんですね。

 

 

 

読書会

 

 

杉本:嬉しいなあと思って。さすがプロ、腕が違うなあと思ったんだけども(笑)。それでまあ今日は改めて。ある意味では終ったあとだから却って聞くのにいいことも多いかなと思うんですけど。

 

勝山:そうですね。

 

杉本:読書会には私、もう嘘なく感激しましたね。

 

勝山:ああ。良かったですよ。

 

杉本:もちろん自分の編纂した本を取り上げてもらう中でお褒めいただいて嬉しいのは当たり前なんですけど。やっぱり何というのかな? 北海道でも漂流教室の相馬さんと二回トークしたりして、そのあと懇親会のコアなメンバーの人たちとも話をしてるんですけど。やはり本の具体的な中身の深い部分の堀りさげまでは行ってなかったので。今度こちらでも石狩の親の会で読書会を開いてくれるんですけど。横浜の読書会は林(恭子)さんにせよ、ほかの人にせよ、この話、この部分とか、本を作っているとき読み解いて欲しいなあと思ってたところへダイレクトにズバズバきたから。もう、すっごく嬉しくって。ああ、やはりこちらの人たちってすごい。読解力すごいなあって。で、林さんからいろいろ資料をもらって家に帰って見たら、「あ、なるほど」と。もう10年来ひきこもりの本を毎月読んでいる。それと湘南ユースファクトリーとかのメンバーにも勝山さんはいっているし。林さんとか、丸山さんとか。まあ、近藤さんのような若くて面白い人もおり。

  「やっぱりそうなのか」とね。近藤さんを当事者と言っていいかわかりませんけど、やはり当事者の人がいま運営側にまわって活動家もやりながら。で、読書会もコアにやっていたんだ、と。僕らの本も基本的に支援者に力負けしたくないというかね(笑)。変にツッパッてるところもあったんですけど。そういう部分もすごくスムーズに理解してもらえたのはこういう背景がある場所だからだと思って。すごいなあと思いました。

 

勝山:ああでも、杉本さんが来た会は特に話が深まった回でした。いつでもああいう感じというわけではないですよ。

 

杉本:本によってはそうでしょうね。

 

勝山:うん、そう。また本人が来てるというのもありましたし。

 

杉本:ちょっと喋りすぎましたね、私。後半にね。

 

勝山:全然そんなことないですよ(笑)。主役なんだもん。しゃべらなきゃ。

 

杉本:いやまあ。何を言いたいかといいますとね。親の会とか当事者会もそうなんですけど、「社会が・・・」とか言っちゃったりすると結構ね。ビクビクなんですよ。なんか働いてない言い訳として、社会構造がうんぬんとか。実際はチラッチラッと言ってるんですけど。ちょっとここら辺で抑えておかないと何か当事者としてあまりにも増長してるんじゃないか?みたいな考えが浮かんできて。怖くなってくるんです。途中でね。「喋りすぎてませんか?」みたいな。ちょっとみんなの顔色伺っちゃったりして(笑)。

 

勝山:うん、わかります。

 

杉本:それがあそこで喋ると全然。不安がないというか、大丈夫だなという。うなずいて聞いてくれるというのがあって。いやあ、これはずいぶん可能性があるなというか、正直、「最高だなあ」と思いましたね。

 

勝山:(笑)。

 

杉本:何かね。すごいことだと思うんですけど。私。

 

勝山:いやいや。でもあの回は特にそうでしたね。

 

杉本:そうですか。それであればよかった。

 

勝山:新たにこう、ね。ひきこもりについて個人が乗りこえていくという問題として、最初の頃は話してたんだけど、「それだけじゃないんじゃないか」と。長くやってきてそういう話が出てきた。杉本さんがいた今回は、それが特に出ましたね。

 

杉本:まあ、本の内容もね。やはりその傾向がありましたし、これは出版社が統一感というか、編集能力の高い出版社で、全体に整理した形でうまくまとめる能力が高い編集者がついてくれましたから。一層、統一感みたいなものは出せたと思うんですけど。ただ、元々キャラクターがね。そういう人から話を聞く機会が多くて。和歌山も栃木もね。まあ、和歌山なんかは割と偶然性が高かったんですけど、宮西先生も面白い人だった。ラッキーでしたね。人選も。

 

 

 

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