近藤健さん(横浜ひきこもり自助会「STEP」世話人、家庭教師)

 

 

 

 

 

 

就活を保留にした動機

 

杉本:近藤さんとは横浜の『新ひきこもりについて考える会』の読書会で初めてお会いして、その時にも少し話しを伺ったんですけれども。やはり近藤さん自身、ひきこもりの方といえるのかどうなのかと(笑)。

 

 

 

近藤:(笑)。

 

 

 

杉本:微妙な感じがあったんですけれども(笑)。ご自身ではひきこもりだと認識しているって考えていいのでしょうか?あるいは「だった人」という感じでしょうか。

 

 

 

近藤:僕もちょっとどうなのかな?と思ってるんですよね。でも、空白期間がいちおう6年半あったんですけれどもね。もともと空白期間に入るきっかけについてなんですが、大学3年生のときにベーカリーカフェでバイトしていたんです。そのバイトをしていた時期、雪が降っている日にホームレスの人がお店に入ってくれことがあったんです。コーヒーを注文してくれて。雪から逃れて暖をとりにきた感じなんですよね。ただ、メッチャにおうのと、パッとみたときに「わっ」と思う。

 

 

 

杉本:あ。じゃあ、見るからにホームレスという感じ?

 

 

 

近藤:そうですね。そういう感じがあって、そこのベーカリーカフェはほとんど女性スタッフなんですけど、店長から僕に「出してきてくれるかな」という風に言われて。

 

 

 

杉本:お店の作りもおしゃれな感じなんですか?

 

 

 

近藤:まあそうですね。若い人向けの小奇麗な感じで。ですから、「出してきてくれるかな」というのは男性の、自分の役回りとして回ってきたんです。

 

 

 

杉本:あ、すみません。「出してきてくれるかな」というのはどういう?

 

 

 

近藤:「出してきてくれるかな」というのはほかのお客さんの目とかもあるし。

 

 

 

杉本:出てってください、みたいな?

 

 

 

近藤:そう。出てってくださいというような。

 

 

 

杉本:お金は払ってるんですか?その人は。

 

 

 

近藤:払ってるんですよ。

 

 

 

杉本:(笑)払ってるんですか。なら、出てくださいとは言えない。

 

 

 

近藤:ですから、「それ、おかしいな」と思ったんですよね。

 

 

 

杉本:ええ。

 

 

 

近藤:「おかしいな」というのと、あと、「どこに?」というのを思ったんですよね。

 

 

 

杉本:ああ~!その人がね......。雪の中。

 

 

 

近藤:ただの酔っぱらいだったら帰る家もあるだろうし。ですから、「え?」と思ったんですけど。だけど「え?」と思いながらも、「え?なぜ?」と口論せずに、「あ、はい」と返事をしちゃって。それで、その人に、「すみません。混みあってきてしまったので」と声をかけて。すると、スッと出てってくれたんです。そのときに何か、「アレ?」って思って。いま俺、人を殺したんじゃないかな、という気もして。”ギョッ”としちゃったんですよね。びっくりしちゃたんです。で、その月の給料もらうときに、「あの時間のぶんが入ってる」って思って。何かすごく気味が悪かったんです。その月の給料が。

 

 

 

杉本:ああ~。はいはいはい。

 

 

 

近藤:「うわっ」と思って。

 

 

 

杉本:あ、ごめんなさいね。話の途中で。その、「びっくりしちゃった」というのは?その人が出てったことにびっくりしたんですか?それとも近藤さんが自分がそういう言動をしたことに?

 

 

 

近藤:まあ自分がそういう言動をしたこともそうだし、あと何か・・・

 

 

 

杉本:あ、そうか。お店の対応に?

 

 

 

近藤:お店の対応もそうだし、そうですね。本当に自分が「あ!」と思いながら、でも、「何かそれっておかしくない?」って言わなかったのはなぜだろう?と思って。でもそれ言わないと、と思って。

 

 

 

杉本:やっぱり店員さんだから......

 

 

 

近藤:自分が店員だから、っていうセルフイメージがあって。それで、「あ、はい」と言ったんじゃないかと。

 

 

 

杉本:ああ、自動的にちょっとね。店長さんに言われたことを言っちゃった、と。

 

 

 

近藤:でも何かちょっと、「お天道さんに顔向けできないな」って気持ちもあって。何かこう、悶々とぐるぐる。それがしばらく取っ掛かりになってですね。で、その後ちょうど就活が始まる時期で。

 

 

 

杉本:3年生くらい?4年生?

 

 

 

近藤:3年です。で、就活スタートしたときに、いまも「げっ」と思ってるけど、自立して生きていったあとにこういうことを組み込みながら生活が成り立つようになると、「げっ」と思う余地もないだろうと。それでおっかなくなったんですよね。就職することが。

 

 

 

杉本:ああ~。サラリーマンになることがね。なるほど、なるほど。

 

 

 

近藤:もう、まとめて全部おっかなくなって。で、一回ちょっと考えたんですけど、もう考えきれないなぁと思って。置いとこうと思ったんですね。

 

 

 

杉本:就労に関しては。

 

 

 

近藤:「ぽいっ!」って(苦笑)。棚上げしたい。

 

 

 

杉本:保留にね。

 

 

 

近藤:はい。棚上げしたいと思って。で、まったく就活とかしなくなって。

 

 

 

杉本:それで6年くらい働かないで生活してたと。

 

 

 

近藤:そうですね。とりあえずそれで卒業して。で、空白期間に入る。

 

 

 

 

 

次の生活が始まると思っていた

 

杉本:その空白の時期ってどういう風に過ごしてたんですか?別にひきこもっていたわけではないんでしょう?

 

 

 

近藤:そうですね。卒業するタイミングではまあその、大学生が終ると勝手に次が始まるのかなと思ってたんですよ。

 

 

 

杉本:ん?勝手に次が始まる?

 

 

 

近藤:次が始まるというのは、つまり大学生というのは学校に行くという日常があるわけじゃないですか。

 

 

 

杉本:はい。で、一応その日常が切れますよね?

 

 

 

近藤:そう。切れて。そのあとどうするのかということなんですけど。「なったらなったで、わかるかな」と。で、まあ、「どうなるかな?」というのと、「なったらなったでわかるだろううな」という両方の気持ちで卒業して。で、卒業したあとに、あの~、友だちとかね。友だちとか後輩とかは「近藤先輩、どうするんスか」と聞いてきたんで、普通に「いや~、卒業後はムーミン谷を探しに行くよ」って(苦笑)。

 

 

 

杉本:ふふふふふ(笑)。旅立つ?どこかに(笑)。

 

 

 

近藤:冗談だろう(笑)と言われて。まあ自分もそうなったあとに何かその、「生活が始まるのかな」と。

 

 

 

杉本:ほお~(感心)。ほうほうほう。

 

 

 

近藤:自分が3年のときに自分で同じように決めないでいた先輩もいたし、その先輩はそのあと生きているわけだから。

 

 

 

杉本:あ、同じような形でね、なるほど。モラトリアム青年だ。いるんですねえ。

 

 

 

近藤:はい。ですからその、何かあるのかな、と。そしたら何もない(苦笑)。

 

 

 

杉本:うん。あのね、ほら、大学卒業するじゃない?とりあえずまあみんな就職のほうに行きますよね。行き先として。近藤さん、行き先はどこかあったのかな?そのあいだ。

 

 

 

近藤:う~ん。

 

 

 

杉本:働いてないあいだ。何か俺が偉そうなこと言ってるのが何なんですけど。(笑)

 

 

 

近藤:う~ん。だから本当、なくって。

 

 

 

杉本:どうしていました?人には会ってたんですか?

 

 

 

近藤:何か誘われたら。

 

 

 

杉本:あ、誘われたら。

 

 

 

近藤:はい。

 

 

 

杉本:うん。誘われるといっても、どうですか。そんな頻繁にね?週末とか、相手が休みの日とか。あ、でも学生の後輩とかもいるのかな?

 

 

 

近藤:いや、でもけっこう同年代の友だちも。いや、俺ヒマ人だから相手は忙しくなったりするわけじゃないですか?

 

 

 

杉本:そうですね。

 

 

 

近藤:で、ほかの友だちも忙しくなってるだろうと気を使うわけですよ。でも「あいつ(近藤さん)は都合がいい」。へへへ(笑)。「どうせ暇なんだろう」という役回りで。ぼちぼち誘いがあったりして。そういう時は何か向こうはそれまでよりも働いていて使える金が増えてるから、大きな金でおごってくれたり(笑)。

 

 

 

杉本:ははは(笑)。おごってくれるの?(笑)。

 

 

 

近藤:おごってくれて(笑)。

 

 

 

杉本:平日の夜とか「飲まねえか」とか呼び出しあったら、「行く~」みたいな感じですか?

 

 

 

近藤:そうそうそう。

 

 

 

杉本:ああ~。なるほどねえ。

 

 

 

近藤:で、そういうことはチマチマあったんですけど。自分から外に出ると元々入る予定がないお金が減るから(笑)。

 

 

 

杉本:そうですね。お金はなくなりますね。

 

 

 

近藤:出るとお金が減るし、だから自分からはないですね。で、どう過ごしてたかというと学生の頃は結構オンラインのマージャンゲームとか、遊んでたので、その時間がグンと増えたという(笑)。

 

 

 

杉本:何時間ぐらいやってました?ゲーム、一日。

 

 

 

近藤:う~ん。

 

 

 

杉本:けっこう時間取ってましたか?

 

 

 

近藤:うん、すごい時間取ってましたね。

 

 

 

杉本:ああ、とれるものなんですね。5~6時間とか?

 

 

 

近藤:いや、もっととってたかもしれないです。

 

 

 

杉本:あ、そうですか。

 

 

 

近藤:まあほとんど寝て起きてゲームして寝る、みたいな。で、やっぱりオンラインゲームなので、ネット内の知人もすごく増えたり。

 

 

 

杉本:ああ~!はいはい。

 

 

 

近藤:そうですね。

 

 

 

杉本:なるほどね。いまはゲームで。で、そういうゲームの知り合いの人とかとリアルで会ったりとかも?

 

 

 

近藤:稀にありますね。本当に稀ですが、「どこに住んでるの?」という話になったときに「横浜だよ」って言って。遠くの「俺、香川だよ」と言っている人とか、社会人でたまに横浜に来られるときがあって。で、その時に僕のキャラクターネームが「カツオ」だとすると、「僕、今度横浜に行くんだけどさ。カツオ時間空いてる?」みたいな。「あるよ」って言ったら会ったり。そうですね。まれ~にあることはあります。でも滅多にないですね。

 

 

 

杉本:そっか。あの、ゲームやるじゃないですか。まあ、マージャンでも何でもね。そういう時はチャットみたいに文字会話見たいのをやるわけ?

 

 

 

近藤:そうですね。チャットはすごくありますね。

 

 

 

杉本:じゃあバーチャル・リアルだけど、リアリティの感じではあるんだ。

 

 

 

近藤:それもあるし、親しくなればスカイプで通話したりとか。

 

 

 

杉本:ああ~。スカイプでね。なるほどね~。

 

 

 

近藤:そういうのって、お金がかからないし。

 

 

 

杉本:そうですね。かかりませんね。

 

 

 

近藤:ですから結構そういう時間が長くなって。で、6年くらいは大体そういう生活。

 

 

 

杉本:親御さんは何も言いませんでした?

 

 

 

近藤:あんまり何も言わなかったんですよ。

 

 

 

杉本:何か不安そうにしてるとか。ありがちな「いつになったら働くんだ?」とか。

 

 

 

近藤:まあ、たまに、「どうすんの?」みたいな話があって。

 

 

 

杉本:プレッシャーじゃないですか?そういう時って。

 

 

 

近藤:そうですね。ちょっとプレッシャーなんですよ。で、それも「どうもこうも。う~ん」と思って。そのとき答えられる中身がないので、「う~ん」という感じになっちゃうんですよね。答えるものは何もないと。すると親父はまあ、「ま、いっか。好きにしなさい」って(笑)。

 

 

 

杉本:ああ、優しいですねえ~。

 

 

 

近藤:はい。

 

 

 

杉本:へえ~。じゃあ、「就労圧力」みたいなのを加えてきたりはしなかった?

 

 

 

近藤:あんまりなかったですね。

 

 

 

杉本:それはうらやましい。

 

 

 

近藤:で、あの~。ハローワークに行こうと思ったきっかけがあって。

 

 

 

杉本:ええ。6年後ですね。

 

 

 

近藤:そうですね。それは何かまあ、そろそろ両親老いてきたなあと思って。

 

 

 

杉本:ん?

 

 

 

近藤:あの、両親が老いてきたなと。

 

 

 

杉本:あ~。年齢がね。

 

 

 

近藤:そうですね。でこう、何だろう?元気で歩いている時間が短いかもしれないと思ったんですね。そのあいだに何か冥土の土産を。

 

 

 

杉本:うん。早いと思うよ(笑)。

 

 

 

近藤:(笑)息子が旅行に連れてってくれたみたいなのを叶えさせてやるか、みたいのを考えた(笑)。

 

 

 

杉本:なるほど(笑)。「親孝行」ですね。

 

 

 

近藤:なにかこう、思ったんですよ。

 

 

 

杉本:はい。

 

 

 

 

 

物欲はあまりない

 

近藤:たまにこう、「お前ちょっと買い物に行ってこいよ」って。で、「いいよ」って。そのつり銭を「取っとけよ」と言ってくれることがあったんですけど。

 

 

 

杉本:あ、親から?それ以外に月々お小遣いとかはもらっていなかった?

 

 

 

近藤:ないですね。

 

 

 

杉本:あ、ない?

 

 

 

近藤:はい。

 

 

 

杉本:ああ、それは厳しいなあ。

 

 

 

近藤:友だちの結婚式とかあると、「お前ご祝儀のお金ある?」みたいな。「ない」というとくれたり。

 

 

 

杉本:う~ん。自由になるお金ないのかぁ。

 

 

 

近藤:ないですね。あまり。

 

 

 

杉本:それはそれでもう、働いてない以上は致し方ないという?

 

 

 

近藤:まあでも、「使いたい」というものもないんですよね。

 

 

 

杉本:そうそうそう。この前の読書会のときも言われてましたけど、「そんな使う欲ってありますかね?」って仰ってましたもんね。

 

 

 

近藤:はい。僕、ずっと好きなものといったら奥田民生のCDくらいしかなくって。で、奥田民生が何か歌を出すと出来ればシングル直接購入して、彼の活動資金になればいいなと思うんですけど、でも今だと待っているとブックオフで安く買えるから(笑)。ははは。

 

 

 

杉本:(笑)待ってるとねえ~。

 

 

 

近藤:それも安いし。

 

 

 

杉本:でも著作権は入ってこないんだよなぁ。

 

 

 

近藤:入ってこないんですね。だからその、何というか、「あなたの活動応援したいです。正規ルートで買いたいんです」けど(笑)。まあ、僕もそんなお金ないからブックオフで買っちゃうな、みたいな(笑)。

 

 

 

杉本:(笑)間接的な応援をさせていただきます、と。

 

 

 

近藤:はい。それとかツタヤでレンタルしちゃうとそれこそ300円でDVDーRで焼いて安く手に入っちゃう。何かテレビゲームしたいと思っても、500円とか300円でも中古品が売ってて、それで時間も潰せちゃうし。あとはまあ、衣食住も(笑)。衣に全然興味なくて。いまでも高校生の頃と同じ服を着てるんです。で、靴とかすごくボロボロになるんですね。ボロボロになっても平気なんですけど。そうすると家族が「あなたが良くても私が一緒に歩くとき辛いから、頼むから買って」って。

 

 

 

杉本:「買って」って?へえ~。

 

 

 

近藤:そういうときに、それでも僕はあんまり(笑)。欲しくもないのに何で買わなくちゃいけないんだろうなあ?と思ったり。

 

 

 

杉本:ほお~。物欲がねえ、あんまりないんですねえ。近藤さん、安あがりな人ですね(笑)。

 

 

 

近藤:そう、安あがりなんですよ。

 

 

 

杉本:こんな言い方、怒られちゃうけど(笑)。いや~、経済的でいいなあ。どうなんでしょうかねえ?何か若い人ってそういう傾向あります?いや、これは一般論にはできない話だとは思うんですけどね。近藤さんがちょっと特別なのか(苦笑)、それとも一般に若い人にそういう傾向があるのか。確かにCDなんかはね。売れてない。デジタルで音源聴けるから。100円だけ払ってとか、最近じゃアップルや何かで月1,000円で聴き放題とかとかのサービスもありましたし。

 

 

 

近藤:物欲がないのもあるし、やっぱりモノ自体が溢れてるんだと思うんですよね。それでもすごい広告で新商品をパーッと、「いいぞ」ってやるじゃないですか?そこにずっとアクセスしてれば、「ああ、何か欲しいな」という気がすると思うんですけれど。それはそもそも言われなくても勝手に内側から発するものなの?ってすごい疑問で。

 

 

 

杉本:うん。それはそうですね。言われてみると仰るとおりで。うん、うん。

 

 

 

近藤:実際、何だろうなあ?たぶん頑張らないとある状態にならないんじゃないのかなと思うんですよね。頑張るというか、積極的にグイグイ刺激しないと。

 

 

 

杉本:うんうん、うんうん。

 

 

 

近藤:というのもあるし、あとこれは個人的な問題で『BS世界のドキュメンタリー』見るのが結構好きなんです。その番組で大量生産されているものがどういう流れの中でできてくるのかみたいのを、けっこう見せられるわけですね。

 

 

 

杉本:ああ~。なるほどね。

 

 

 

近藤:そうすると何か「ヤダな」って。しわ寄せがどこに生まれているのかというのがわかるので。

 

 

 

杉本:ああ~、はいはい。そういったタイプのドキュメンタリーですか。

 

 

 

近藤:そう。「世界のドキュメンタリー」自体が好きで結構よく見るんですけど、中にはそういうものがあって。

 

 

 

杉本:社会性が高いやつですね。

 

 

 

近藤:はい。見てると、「ああ~」って思うし、元々小学校、中学校とわりと素直な子だったので、もともと公害とか(笑)。いろんなゴミ問題とか教え込まれるじゃないですか?そういうのを素直に「ああ、そうなんだあ」と。聞いてると何かモノを「買って、買って、買って」というのは何か良くないんだな、みたいな。たぶん僕らの中学生くらいの頃って『ドラえもん』とかも、オチがけっこう何ていうんだろう?「人間の欲が大変でした」(笑)、みたいなストーリーのものがけっこう多かったんで。

 

 

 

杉本:ああ~。そういう風に変わってきてるんですね。

 

 

 

近藤:多かったなあ、と思って。うん、そうですね。

 

 

 

杉本:僕らの頃はね。『くれくれタコラ』ってマンガがありましたよ。アニメーションで(笑)。もうモロじゃん、みたいな(笑)。

 

 

 

近藤:ははははは(笑)。

 

 

 

杉本:(笑)物欲を満たす、というのがね。あとこれはズレちゃうけど、僕が子どもの頃のアニメーションとかで『巨人の星』というマンガがあったんですけど、まだ「貧乏」の名残がね。何しろ書き手がまだ戦前から戦後の貧乏の時代を過ごして、で、漫画家ってもともと食べれない人、多いじゃないですか?だから(笑)水木しげるさんじゃないけど、食べれない時代を知ってる人たちが切実な思いで書いてるから、けっこう貧乏からのしあがっていくというタイプの作品がたくさんあって。僕は子どものときに見てるから、「ああ、貧乏って辛いなあ」とか。本当、「みなし子」とか(笑)、孤児院とか、それこそタイガーマスクの世界とか。孤児の子どもたちを助けてあげるために頑張るんだとか。何かね。ものがない、物欲を満たさなくてはいられない、みたいな。名残がまだ残っていたんですよ。

 

 

 

近藤:親父に言われたんですよね。

 

 

 

杉本:いくつくらいですか?お父さん。

 

 

 

近藤:親父、いま74かな?

 

 

 

杉本:そうか。けっこうですよね。

 

 

 

近藤:74なんですけど、何か僕がぼ~としているときに「俺の子どもの頃の夢はさつま芋をお腹いっぱい食べることだ」と。で、もうずっと脳裡に「さつま芋腹一杯食えたらどんなに」って。で、「食いてえ」という一心だけでこう、走ってきたと。俺はそう生きてきたと思う、って。

 

 

 

杉本:そうか~。団塊よりちょっと少し上。昭和20年よりちょっと前生まれかな?おそらく昭和16,7年くらい?きっと。

 

 

 

近藤:で、長崎なんですけど。

 

 

 

杉本:長崎なんですか?はい。

 

 

 

近藤:で、親父が3歳の頃にはもうお父さんも戦死してて、お母さんと一緒に家も原爆が落ちちゃったし、で、親父のお母さん、僕のおばあちゃんですよね。そのおばあちゃんと一緒に、もともと近藤家じゃなかったらしいんですけど、近藤家にふたりで、ふたりというか、あと父のお姉ちゃんもいたらしいんですけど、3人で養子に入って、けっこう苦労しながら頑張ってやってた、と。

 

 

 

杉本:うん、うん、なるほど。

 

 

 

近藤:で、俺はその、さつま芋腹いっぱい食ってみたいという気持ちでいるけど、お前、飢えたことないもんなあ。だから感覚というかね。ぼやっとしてることについて何か互いに分からんだろう、というのは親父に言われたことはあって。

 

 

 

杉本:うん。そっかあ~。そこら辺は割と淡々と?そういう話は客観的に?

 

 

 

近藤:そうですね。それは説教ではなく。

 

 

 

杉本:ねえ?普通、親というのは説教のほうに行っちゃうものだけどもね。「俺の時代はこうだったのに、お前は何だ」みたいな方向に行きやすいと思うんだけど、それがなかったというのはなかなかなお父さん。客観性が高いというか、冷静なキャラクターの人ですね。時代が違うということをちゃんと認識していて。子どもが生きている時代が違うんだ、ということをね。いまは別に俺の時代とも違うしなあ、仕様がないか、みたいな風に思ってくれたのかしら。

 

 

 

近藤:まあやっぱりそうですね。まあ僕が生まれてきてからこう、どういう世界かというのを親父は見てるし、それは「さつま芋、腹一杯食いたいー!」という気持ちは当然親父も子どもが同じように持つもんだとは思えなかったというかね。

 

 

 

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