最初は「いつ卒業するのだろう」と思った

 

杉本 それでいま、話し合いを中心にした栃木の若者サポートステーションのミーティングには何名くらい来られているんですか?

 

山尾 いまはコンスタントに10名くらい。で、2か月にいっぺんくらい新しい人が来たりというか、新しい人が来るのは不定期ですから、「ここに行ってみたらいいんじゃないか」という形で紹介されて来るので、この間ひさかたぶりに新しい人が来たんですけれども。

 

杉本 一番上の年齢だと幾つくらいなんでしょう?

 

山尾 30代後半くらいですね。

 

杉本 その人は長いんですか?

 

山尾 割と長いです。もう34年。もっとかな。もっと下のかただと10年は来てますけども。10年前から来ている人もいます。

 

杉本 始めた当初は2008年くらいですか?

 

山尾 はい。

 

杉本 最初はただ会って、集まって話し合うだけでやっぱり「これでいいのかな?」と思ったのでしょうか。

 

山尾 そうですね。私は最初から関わっていなくて、村澤さんが最初にはじめて、正式に始まった時から入ったんです。その前から1年間、2007年から1年間くらいかけてちょっと試行的にやっていたんですよね。そのあとから入ったので。

 

杉本 じゃあ試行期は村澤さんが?

 

山尾 そうです。で、「来てみない?」と言われて。2008年から始まったんですけれども、自分としては最初はやっぱり大事な試みだけど、この人たちはいつ卒業するんだろうな、という思いはすごくありました。つまりこういう空間で体験したこと、元気になったことを持って次のステップをどうするか?ということを自分たちはどう支援するかというのを考えていたことがあって、そうするとこの空間をもうちょっと変えなくちゃいけないと思っていた時期もあるんですけれども、やっぱりそれをしてしまうと、要するに「出ていけ」という話になるので、それはまずいだろうと。2年、3年かけて気づいたというか。そんな感じですね。

 

杉本 ああ~。思考してたというか、考えていたんですね。

 

山尾 次のステップが必要だとしても、それはまた別の場でやることであって、まずは基本的な安心感みたいなものを持ってもらうのが大事だなと。それをやめて、ミーティングの場を勉強する場にしようねとかと言ってしまうと、やはり居場所ではなくなってしまうのかなというのは、後になって気がつきました。それからあとは、ここから先はあえて変わらない。そういう場として作って行こうという考え方に変わりましたね。

 

杉本 本が出て読んだときは、やはりひきこもりの自助会とよく似てるなという印象がすごくありました。で、ぼくは地元の代表の人とはコミュニケーション取ってないですけど、サブでやっていた当事者系の友人はやはりいろいろ、まあ司会とかやっておられたのでね。思い悩んではいましたね。最初に山尾先生が思われたことはやはり滞留ですか?その気がかりについては「ああ~」と。「このままでいいのかな?」とやはり考えてしまうんだなと思って。運営者はどうしてもそういうことを考えざるを得ないかな?と思いました。

 

山尾 ええ、そうですね。自分自身も最初はそこからスタートしましたけど、またサポステ内でも若者支援の評価基準が就労という所にかなり特化してきていますから、プログラムとか、そういう形ならば出来ますけど、「ただの居場所」とか言ったらダメなんですよね。

 

杉本 本来札幌もやってたらしいのですが、ひきこもりの当事者会の司会をやっていた友人が利用者として関わっていたサポステの居場所を継続してやってみてくれないか、みたいな。それは全くインフォーマルな形。フォーマルじゃないインフォーマルな形でやっていたみたいです。その当時の参加者が今でもお付き合いがあるみたいで、まさに相互な基本的安心の関係になっているみたいですね。でも、札幌のサポステは居場所はもう辞めちゃったらしいです。当時の担当者に聞きましたけれどもね。「ひきこもりの支援はやれないです」と厚労省の役人にはっきり言われたと。

 

山尾 ええ。そうなんですよ。ですから、就労支援という枠組みの中で居場所のありようを位置付けるようにせざるを得ない状況になったので、まあそこはいろいろ工夫して(笑)

 

杉本 うまく…

 

 

 

安心できる居場所も就労支援

 

山尾 うまくやっていくという風な形ですが。もちろん中身は全然変えていません。まあ言ったらそこでそうやって遊んでいるような中で、次につながるような元気とかが出るような、それも就労支援のはずなんですけれども。

 

杉本 そうですね。

 

山尾 そういう形としては見られないというのが現状の問題で、その評価の枠組みみたいなものは、もうちょっと多様化していかないといけない。それぞれの実践にちゃんと見合った評価の枠組みをちゃんと作らないと、せっかく必要なことをやっているはずなんだけど、パソコン教えてないからダメですね、みたいな。やはり評価をされてしまうので、ここは何とかして実践に見合った評価というものをどうやって作って行くか。そういう、研究とまではなかなかちょっと行かないですけど、そこの部分は考えていきたいなと。そういうことをやっていきたいと思います。

 

杉本 なかなかでも、よくやられていますよね。

 

山尾 いやあ(笑)

 

杉本 ほかのサポステだと出来ないんじゃないですか?おそらく。

 

山尾 う~ん。そうですね。まあでも、いまミーティングはサポステの中でさっき言ったように、「就労」という所で位置付けられている場所なので、いったんサポステの中からは出たんですよ。別の団体と同じところがサポステをやっているんですけれども、その親元の団体のとろでミーティングという形でやりますと付け替えをしたんです。で、いままたサポートステーションに戻っています。

 

杉本 ああ、そうなんですね。

 

山尾 ただね(笑)。そのへんの位置づけが難しいというか、そういうところですね。

 

杉本 サポステ代表だった塚本(明子)さんは、いまもサポステ専従ですか?

 

山尾 はい、そうです。

 

杉本 するとあの古民家みたいなサポステの建物の中でやっているんですか?

 

山尾 あ、実は場所がないんですよ。場所がないので、いろんなところを借りてやっています。

 

杉本 あ、そうか。やっぱりサポステとしてはお金を出せないからということで、場所がない?

 

山尾 いまはサポステが借りているような別の場所をやっと使えるようになりまして、そこでやっていますけども。それ以前はいわゆる市民活動サポートセンターとか、そういういろんな場所を借りて。あと、福祉センターとか。いろいろ予約して使ってたんですよね。結局、だんだんとほかの市民団体も使うので、予約が大変なんですよね。

 

杉本 そうですか。場所の確保って大変ですよね。で、やり方は変えずにやっていると。栃木は例えばひきこもり団体がそういう活動をやってるところはないんですかね?

 

山尾 どうでしょう?でも、ひきこもりの親の会とかは幾つかあります。あるんですが、ちょっと活動の確認はあまりしていないので。よく分からないですけど、いくつかあります。

 

杉本 当事者会みたいなことはやっていないのかな?

 

山尾 あまり話は聞いていないですね。これも確認をしないとまずいんですけど。だけどこのミーティングのほかに、絵を描いて一緒に過ごそうという会とかがあります。

 

杉本 あ、それは完全にそれはそれで、絵の会は別枠で?

 

山尾 はい。幾つかそういうメニューはサポステにありますので、ミーティングに来る人はいろんなところを使い分けながら来るみたいですね。

 

杉本 なるほど。スキルアップ講座に行く人もあるかもしれないですね。

 

山尾 そうですね。

 

 

 

待っている場所でいるためには変わらない

 

杉本 この本の事例に出てくる「詩織さん」というかたは卒業されたのですか?

 

山尾 いまはそうですね。

 

杉本 仕事とか、アルバイトとかされてるんですね。

 

山尾 そうですね。でも、たまにふら~と戻ってきたりとかすることがあって、それは久々にみんなに会いたくなって。別に何がどうというわけではないのだけれど来てみた、というような。そういう人は他にもいます。

 

杉本 ひきこもりの当事者会と同じだなあ。本当に何年ぶりとかで来るとか、聞きますので。

 

山尾 だからそのときに、例えばミーティングに久々に行ってみたら突然みんなが何か一生懸命ドリル解いている場だとしたらそれはたぶん「ああ!どうなったんだろう?」って思うわけですよね。

 

杉本 (笑)そうですよねえ。

 

山尾 なので、「変わらない」というのはいつでも待ってるというような場なのかなという気はするんです。

 

杉本 やあ、アジールですよね。やっぱり。居場所ですよねえ、目的のない。大事だと思う。というか、よりいっそう大事だなという気がして仕様がないんですけど(笑)。こう、世の中がキツキツな感じだと。

 

山尾 ええ、そうですね。まあ、この実践はそういう、若者自立支援という枠組みの中でやってますけども、まあ同じように一息つける場みたいなものは、一般の人にも普通に必要なはずなんですけども。それがあまりないのかな、というのは思います。

 

杉本 そう、これもだから大学生さんが「暇がない」というのと同じで、やはり世の中の変化ですよね。いまもコーヒー・チェーン店で話してますけど、昔は個人の喫茶店があちらこちらにあって、営業マンみたいな人が昼間タバコ吸いながらまったりしてるみたいな時間。あまりなさそうだなと、みんなこうやってノートパソコン持ち込みながら作業していたりとか。

 

山尾 ええ(笑)

 

杉本 それはもちろん、そういう時間が必要だからやってるのだろうし。何といったらいいのかな?それが忙しすぎないか?とかいう理由は何ひとつないのですが(笑)。ただ、みんな一生懸命だなあという気はしますね。というか、みんなぼんやりしてないですよね。

 

山尾 そうですね、うん。それは本当にそうだと思います。

 

杉本 だから変な話ですけど、定年退職して悠々自適の高齢者の人もけっこうぼくも喫茶の全国チェーン店とかでインタビューに向けて本を読んだり、音声の全起こししたもののを編集するためによく活用してるんですけど、たまには居ます。買い物の帰りに喫茶店で過ごしている人とか。おじいさん、おばあさんみたいな人も。ただ、あんまりまったりできる気分にならないかもしれないな、と思ったり。

 

山尾 ふふふ(笑)。意識しないと隙間を作れないかもしれないですね。

 

杉本 そんな感じはしますね。だから結局は家かな、というか。出来るのは、そこかなと。

 

山尾 そうですね。

 

杉本 忙しく、あるいは仕事のために邁進するというのは、高度経済成長期は事実問題としてそうだったと思うんですけど、今の時代にもう一回それと似た状況が起きているというのは、一回、何でしょう?個人主義みたいな。自意識みたいなもの?それが大事、みたいなものが流通した80年代育ちの人間からすると、「え?またなくなっちゃったんですか?」みたいな。自意識優先みたいな。批評性大事、みたいな。「青春」とは言わないけど(笑)。若い時は生意気でも構わない、みたいな。それが戻って欲しいな、というのがあるんだけども。無理かなあ(笑)。

 

山尾 う~ん。

 

杉本 村澤さんにもね。話したんですけど。「大人にいいように使われっぱなしじゃないですか?」みたいな。反抗世代が居なくなっちゃったらね。「いや、そうですよ」って(笑)

 

山尾 ふふふ。そうですねえ…。どうしたらいいんだろう?

 

杉本 どう思います?そういったこと。ぼく、生意気にもそんなこと言っちゃってますけど。

 

山尾 う~ん、どうですかね。何かやっぱり話が戻っちゃうかもしれませんが。この基本的な生活とそこから得られる安心というものをやはりきちんと確保しないといけなくて、で、その上でじゃあどう生きるか?ということを考えていける。やっぱりそういう余裕というか。忙しいその隙間で、隙間を見つけて「考える」ということに向かえるような生きかた。そういうものを若者に出来るようにするのはたぶん若者自身というよりも自分たちの世代だ、やはり社会の側の責任だという気はすごくするんですけどね。

 

杉本 う~ん。なるほど。

 

山尾 ええ。変な言いかたですけど、学生たちに対して「君たちただ働きだよね」というのも、良くないし、あるいは「君たちはもっと頑張って社会を変えなさい」と言うとしたら、これは若者に問題を全部丸投げしてる姿勢だと思うんですよ。両方同じだと思うんです。そうじゃなくて、若者が何か出来るとしたら、その条件として社会はどうなっていかなくちゃいけないのか。それは社会を曲がりなりにも作っているこの社会の側が、その取り組みを考えていかなくてはいけないのではないか。そういうことはすごく思うところですね。

 

杉本 そうですね。ご帰宅前の忙しいところ、ありがとうございました。

 

 

 

2019.11.8 札幌地下歩行空間の喫茶店にて)

インタビュー後記

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